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新しい男性声優楽曲のモードを考える(2)ツキノ芸能プロダクション

まず最初に言いきってしまいます。いま、いちばん熱い二次元男性アイドルはツキプロだと。
といきなり言われても大多数のひとがなんのこっちゃとなってると思うのですが、まずツキノ芸能プロダクションとは、広義には『ツキウタ。』というシリーズから派生したムービックのアイドルもの全般をさします。『ツキウタ。』は12ヶ月に対応した男女のキャラクターがそれぞれキャラクターソングを出すという企画として始まり、デュエットしてみたり6人ずつでユニットに分かれたりなどもしています。このシリーズの最大の特徴は、すべての楽曲をボカロPが手がけているところです。というと顔が曇るかたもそれなりにいるのではないかと思うんですが、というかわたしも以前はそうだったのですが、結果的に既成概念にとらわれない曲が多く、またキャラにたいする作曲者の割り当てが上手いというか発注が上手いのかなーなんてちょっと思ってしまいました。


そして今回取り上げるのは、狭義の"ツキプロ"、いわゆる後続組と呼ばれるSOARAGrowth、そしてSolidSです。こちらはSolidSのvol.1以外、すべての曲をじょん(滝沢章)が手がけています。じょんみずからもツキノ芸能プロダクションに所属しているという設定になっていて、ソロアルバムも出しています。Growthにかんしては、以前にもいちど書いてますね。→Growth『ALIVE Side:G Vol.2』
さて説明が長くなりすぎました。このシリーズの素晴らしいところは、もちろん楽曲のクオリティの高さなんですがそれだけでなく3つのグループそれぞれのコンセプトの作り込み、物語の展開と楽曲との連動感、アイドルグループとして見たときのレパートリーの幅広さ、そしてなにより圧倒的な新しさとそこに挑む野心が見えてるところだと思ってます。
SOARAGrowthは新人発掘オーディションに挑む駆け出しユニット、SolidSはデビューしたばかりの人気アイドルという設定なのですが、どのグループも設定と楽曲それぞれにリンクした特徴がつけられています。


SOARAはコンセプトがわかりやすく、音楽の楽しさに目覚めた高校生5人組という設定から想像できるそのままに、ポップでストレートでちょっとエモーショナルな、聴いていてシンプルに反応できるタイプの曲が多い……のですが、そこは一筋縄ではいきません。楽曲的な幅はとても広いこのシリーズを徹底して貫いているのは、じょんの自他ともに認めるハーモニーへの偏執です。SOARAのメンバー自体は5人ですが、メインヴォーカルを豊永利行小野友樹のふたりに絞り、気持ちいいハモりを聴かせてくれます。またじょんの書くメロディって独特の郷愁がある気がしていて、それも若いんだけど落ち着いて聴ける独特の雰囲気を醸し出してます。
また、たとえば"どうせなら今から風になってみよう"という曲では、ところどころでふたりのヴォーカルのロングトーンの長さが異なっています。もちろんふつうならたまたまそうなったのをそのまま録っているだけ、と考えることもできますが、Growth4人の声の波形を細かく調整するほどのじょんの偏執狂的なこだわりや豊永さん小野友樹さんの実力を考慮すれば、高校生らしい荒削りさを出すためにあえてそうしている説を推したい。


SOARAのよきライバルたるGrowthも4人中3人は高校生の設定なのですが、こちらは元アイドル、それも事務所を研修課程でやめることになったという背景があり、そこに謎の天才作曲家が加わりもう一度デビューをめざすことになるという、なかなか盛りだくさんな展開です。楽曲のほうも二声かつ比較的シンプルだったSOARAにくらべて、こちらは四声ということもありわりと難解です。また、4人ともキャリアの浅い若手を起用してるという点でも対照的です。
全体的にこのシリーズでは歌声の相性がかなり重視されてると感じますが、特にその傾向が強く出てるのがGrowthです。複雑なハモりでもへんにだれかの声が浮くことなく、むしろどれが誰だかすぐには判別できないほど声が溶け合っています。作中でも「ただわかりやすく盛り上がるだけじゃない、もっと新しいやりかたがあるんじゃないか」みたいなことを言っているだけに、現状いちばん既存の男性声優楽曲へのカウンターとなりうるユニットだと思ってます。


SOARAGrowthのALIVEシリーズはどちらかというと歌声の調和に重きをおいてるのにたいして、SolidSは全員曲だけでなく2人ずつのユニットやソロなど組み合わせがさまざまあるのもあって、よりそれぞれの個性が際立つことを意識してるように感じます。これはSolidSが既に人気のあるアイドルグループという設定によるところも大きいと思います。
また、前述したようにSolidS Vol.1だけがべつの作曲者の手によるものなのですが、それはもともとALIVEシリーズと差別化をはかる意図だったのかなと考えてます。ただ、経緯こそ不明なれどそこからじょんが「自分ならもっとかっこいいものが作れる」と思ったことで、結果的にいちばんじょんの性癖と悪意が炸裂してるのがSolidSなんじゃないでしょうか。
花江くんのソロ"Good Night My Darling"はソロ曲でもおかまいなしに執拗にハモらせてますし、"クロノア -chronoah-"なんかはワンフレーズごとに上下が入れ替わるのが非常にトリッキーです。悪意って点では超個人的男性声優楽曲大賞にも書いたんですが、この乙女のおまいつ揃いのメンツに"どうぶつのサガ"みたいな毒と皮肉を思いっきり歌わせてしまうところがすさまじい。あと"人生ハードモード"のキー的にも歌詞の内容的にもギリギリのところを裕一郎さんにぶつけるじょんは鬼。
レパートリーの幅という点ではSolidSがいちばん振れ幅が大きいんじゃないかと感じますが、そもそもこのまったく違う3グループを安定したクオリティで書き分けるじょんの手腕に舌を巻くばかりです。と同時にこれからのセカンドシーズンでさらにリリースペースが速くなるので、このレベルの楽曲が出続けるのかという不安も正直あります。しかしそんな杞憂は吹っ飛ばしてくれると期待してます。


ちなみにツキノ芸能プロダクションにはCD入手に死ぬほど苦労したことでおなじみ双子の魔法使いリコとグリも所属してたりします(そっちはさつきがてんこもりが書いてます)。繰り返しますが、まさしくいまいちばん熱い二次元男性アイドルはツキノ芸能プロダクション。今後男性声優楽曲シーンのなかでどういう位置を占めていくのか、注目していて損はないと思います。
次はもうちょっと趣向を変えてみようと思ってます。なるべくはやめに更新します。。