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Blu-ray『MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2014 〜WAKENING!〜』と、宮野真守さんについての所感(あるいは「おたくが聴く用のEXILE TRIBE」問題について)

自分が行った公演の映像ってふだんあんま見ないんですけど、これはけっこう繰り返して見てます。で、このツアー(2014年5月〜6月)当時思ったことと、この前のツアー『AMAZING!』(2015年2月〜3月)に行って思ったことと、さらにこのブルーレイを見て思ったことがいろいろあって、それをなんとなくつらつら書いてみようかなーと。わたしはそんなに宮野さんのこと長く追ってるわけでもないし、あくまで外野(関東の現場はなるべく行ってますし、音源やパッケージもだいたい買ってますけど、宮野さんにかんしては基本的には外野のつもりでいます。この前のFCイベとかはちょっと心揺らいだけど)の感想なのでそんなに気にしないでもらえると。


声優が音楽活動をする比重、またそのスタンスはひとによってほんとうにさまざまだし、なにが正しいってこともないと思うのだけど、宮野さんの場合は水樹奈々様や田村ゆかりんと同じキングレコードMM制作部所属ということで、年に一回はツアーやって、コンスタントにシングルなりアルバムなりのリリースもして、ツアーの映像もパッケージとしてちゃんと出て、最近はめざましとかMJにも出てJUNONにも出て、というかなり恵まれた環境にいる。またその内容をとっても、それなりにシングル曲含む作詞させてもらえたり、コンサートの衣装や映像にすごくお金をかけてもらってたり、会場の規模だって地方何か所も廻らせてもらってたりそれなりに大きな会場でやらせてもらえてたり、とやっぱりとても恵まれてる。WAKENING!のブルーレイに収録されてるのは横アリだしこの前のAMAZING!は武道館2デイズだったし。こうやっていちいち書き出してみると、はたから見ればこのひとのファンはなんて幸せなんだろうと思うだろうし、実際追いかけているその瞬間瞬間はわたしもすごく楽しいなと感じるんだけど、同時にそのいろいろなことがおたくの自尊心を満たす道具になってしまってはいないだろうかという危惧も少しあったのが事実でした。「声優なのにこんなに歌えて踊れるなんてすごい」「声優なのにこんな大きな会場でやってるなんてすごい」「声優なのに地上波全国ネットのテレビに顔出しで出ててすごい」みたいな……。実際そういうのを多少は狙って売ってる部分もあるだろうし。(あーなんか「アイドルなのにこんないい曲やっててすごい」とかそういうのと同じ構図だこれ……)と同時に、子役上がりでテニミュ出身という経歴もあって、良くも悪くも「宮野さんはほかの声優と違って特別だから」という扱いを感じることもままあります。イベントでふざけすぎたところで「宮野さんだからなあ」ですまされてしまうし、逆にどれだけいい曲を歌っても「あー宮野さんは別格だから」で片づけられてしまう。本人が道を誤ったときに誰もなにも文句を言えなくなってしまうのではないか、というよけいな心配もあって。でそれも結局、声優という世界のなかでの『特別』でしかないんですよね。
本人もコメンタリーで「自分がパフォーマンスしやすいように曲を選んだらSTYの曲ばっかりになった」と語っているのですが、『WAKENING!』というツアーは個人的にすごくSTY濃度の高いライヴだなと感じていました。セットリスト全体でいうとそんなにSTYさんの曲が突出して多いというわけでもないと思うのですけど、序盤に3曲固まってることや重要な箇所箇所に配置されてることでそう感じたのかなと。宮野さんはSTYさんの楽曲をすごく気に入って信頼してることがうかがえますし、自分としてもSTYさんの曲はどれもものすごく好みなのでそれ自体は嬉しかったんですけど、ただうすうすと感じていた、(乱暴な言い方ですが)「おたくが聴く用のEXILE TRIBE」みたいになっちゃってるんじゃないかなあ、これで宮野さんはほんとうにいいのかなあという気持ちが形になってきてしまったのです。おたく用にチューニングされたEXILEっぽい曲という意味ではなく、ものは同じで(だってつくってるひと共通してますからね)ただ貼ってあるラベルが違う、だから"LDHのラベルは嫌いだけど声優のラベルがついてたらそれだけで評価してくれる"ようなタイプのおたくが安心して聴ける存在……みたいな意味で。極端な話べつにそれでもいいと思うんですよ。だってそこにすら到達できてないひとが死ぬほどいっぱいいるわけだし、誰も損してないんだし、男性声優界という箱庭のなかで自意識を満足させたいおたくの欲求に応え続けるのも、本人が納得ずくならべつに問題ないんです。ただ、そこには結局なにも残らないし、正直そこに留まるにはあまりに才能がもったいないんじゃないかなあとか、2014年じゅうはもうずっとそういうことでモヤモヤしてて、AMAZING!も2日間当たったはいいもののそこまで楽しめるかどうか不安でした。
ほかのおたくたちと話してるときに「宮野さんはおたくの求める姿をちゃんと演じてくれるから羨ましい」みたいな話になって、ほんっと声優界ってどこ行っても隣の芝生は青いよな!笑、と思いましたが、わたしが宮野さんにいまいちのめり込みきれない理由ってまさにそこなんですよね。とにかく尻尾を掴ませないというか、飄々としてるといえば聞こえはいいけど、本心が誰にもわからないというか。ずっとむかしはもうちょっと違うように見えるけど、いまはもうブログもあんなん笑、だし(でもあのブログ毎日更新してるのはほんとに心からすごいと思う。それだけ仕事量が多いってことなんだろうけど)。それが無理して演じているんだろうなというのが見える感じだったらそれはそれでまだ理解できるんだけど、このひとの場合ほんとうにどこからどこまでがつくりものなのかまったくわからないのがとにかく怖くて。あーこれも怒られそうな例えなんだけどまるでミッキーマウスを見ているみたいな恐怖がある。だけど完全に自分の気持ちを発信してないわけではなくて、それこそ作詞もしてるしライヴのMCなどでもところどころで複雑な思いを垣間見せることもあるけれど、それももしかしたら演技なのかもしれないし、よけいに混乱してしまってとにかくこのひとがどういうふうに進んでいきたいのか、なんだか見えてこないなあと思ってました。だから宮野さんはわたしにとって、これまた乱暴な言い方だけど、ある意味インスタントな快楽を得るための存在でしかなかったわけです。
だけど、この前の武道館ではその答えが少し見えたというか、正直に言ってわたしは宮野真守を侮っていたなあとつくづく思わされました。まあ人間は見たいものしか見ることができないのでわたしの深読みと思い込みでしかないんですけど、それでも「おたくが聴く用のEXILE TRIBE」なんて思われていることはとっくに承知のうえで、さらにその上へ行くための決意みたいなものを見せてくれた気がしたのでした。ていうかEXILE TRIBEみたいな衣装着てるなーと思ってたらまさに本人がそうやって言い出してR.Y.U.S.E.I.のポーズ取り出したときはまじで焦った。現場日記にも書いたけど、「VOICE」での走る振りとかはまさに、プリストが走ることをテーマにしているからなんだろうしたまたまなのかもしれないけど、そういうふうに見られてることを逆手に取っていてしてやられたな、と思えたし。パフォーマンス自体も短期間ですごく成長していたのもあるし、声優がどうとかそういうことが吹っ飛ぶくらい、『不特定多数の人間に愛されること』をすべて引き受けてミュージックスターになるという覚悟が全編を貫いていたと感じました。それはいままでのおたくの欲求を引き受けるということとかたちとしてはひとまず重なっているんだけど、もしかしたらこの後宮野さんが先に進みすぎておたくは置いていかれちゃうのかもしれないし、むしろそうであってほしい。もちろんひとりよがりであってはよくないけれど、いい意味でこれから置いていかれるのが楽しみで、ずっと胸につかえていたモヤモヤが晴れたような気がしました。宮野さん自身は声優という仕事もすごく大切にしていると思うけど、あくまでステージの上では声優だからどうこうとかではなくひとりの表現者として勝負したいという宮野さん本人の意志が伝わってきた、まさにアメイジングな2日間だったんです。と同時にこのひとほんとに自分のファンがすべてじゃない外向けの場にはそういうことをいっさい出さないんだろうなとも思ったり思わなかったり、ということはライヴという場所は宮野さんにとってやっぱりホームなのかなあとか。
宮野さんのライヴの特徴的であり考えてみれば不思議なところってダンサーがただのバックダンサーじゃなくてステージングに不可欠なものとして組み込まれてるところで、それ込みで声優界ではもう並ぶもののいないパフォーマンスなのは確かです。WAKENING!のブルーレイもやっぱりダンスナンバーがいちばん見応えあるし。もう十二分にキャリアも名声もあるひとだし、べつにこのままそこにあぐらをかいていてもずっとやっていけるとは思うんだけど、でも声優という枠組みの外で勝負するんだったらまだまだいくらでも上がある。それは本人がいちばん身に染みてわかっているはずで、だからこそ、これからさらに上をめざすんだっていうふうに思わせてくれたのがすごく嬉しい。いま32歳だからいちばん脂がのってる時期だしね。あと、一回コントなしのライヴやってみない!?って思っちゃうんだけどスマイリースパイキーのお仕事がなくなっちゃうからダメなのかな。っていうか「バラエティ狂い」(by鈴木達央)だからダメなのかな笑 とりあえずは秋に出るアルバム次第でまたいろいろ変わってくるとは思うのだけど、とにかく次の一手を待ってます。願わくばそれが刺激的でわくわくさせられることを。