過去ログ

つづきは http://pinkpinkypink.hatenablog.com/ へ

Thank youじゃん!試論

さてさて、2014年2番目に正しいアイドルソングとしてわたしのなかでのみ話題騒然の「Thank youじゃん!」なのですが(1番はこの前書いたように寺島拓篤さんの「JUMBLE TOWN」です。年に2曲も『正しい』アイドルソングが出現するのは、けっこう稀有なことだと思います)、発売前の印象などを軽く。
パフォーマンスを見るとわかるとおりこの曲は『キスマイBUSAIKU!?』という番組に寄せてつくられているのですが、つまりそれは「世間に見せているキスマイのイメージ」に寄せてつくられているということであります。キスブサの番組中でランキングを繰り返すことにより、その結果として自然と7人にそれぞれ違ったキャラクターが与えられていっています。たとえば藤ヶ谷さんなら"キング"北山さんなら"チャラ男"玉森くんは"王子様"横尾さんは"料理"千賀くんは"ホラー"宮田は"オタク"二階堂くんは"ブサイク"。しかし、当然ながらこのキャラクターはファンが思うイメージとは少しずつずれています。なぜならこのキャラクターはすべてキスマイについて詳しくない女性たちによって形成された、「お茶の間に見せているキスマイ」だからです。
「Thank youじゃん!」はこの世間に見られているキスマイのキャラクターにのっとってつくられています。ゆえにこの曲がコンサートでのキスマイさんたちの振る舞いとは少し離れた、明るくポップな曲調であることは必然と言えます。つまり「Thank youじゃん!」はキスマイさんたち7人が、本来の自分たちの性格とは似通っているようで完全には重ならない『キスマイフットツー』を演じている、一種のキャラクターソングだと思うのです。しかしそもそも、アイドルという職業自体もともとそういう構造を有しているものです。この曲のアイドルソングとしての正しさの一因はそこにあるのかもしれません。
(ここまで読んでいて、じゃあ舞祭組だってキャラクターソングじゃないのかと言うひともいるでしょう。確かにある特徴的な一面を取り出して強調するという点ではそのとおりです。しかし、あれはまず最初に舞祭組というストーリーありきで、本来の4人の特質と重なる部分が少なすぎるからおもしろくないとわたしは思っています。キャラクターソングだから無条件に正しいということが言いたいわけではまったくないのです)
アイドルがキャラクターを演じる、というと、さゆや桃子、手越くん、健人くんのような自覚的にキャラクターを設定してそこに乗っかっていくタイプが連想されがちですが、キスマイさんの場合、周囲が無意識的にキャラクターを形成し、本人たちもそれに気づいているのかいないのかよくわからない、ゆえに良くも悪くも恐ろしいほどのギャップが生じる、というのが最大のおもしろいところだと思っています。というかキャラクターという概念が本人たちにあるかどうかすら怪しい。当然、芸能IQでいったら激低ですが、なんかその不器用さすらも好きだなあと思ってしまうのがオタクの贔屓目ですね……。
あと、今回の曲はキスマイの楽曲には珍しく物語性を感じます。おまえらの大好きな物語性だよ!!! もちろんキスマイさんたち自身のデビューに至る過程には過剰とも言えるほどのストーリーが詰め込まれているわけですが、だからこそというべきか、デビュー後の楽曲にはそれが反映されていない、いわばコンテクストなしの、楽曲だけで勝負している状態だったと思うのです。個人的にはそれはそれでエイベックスらしいストロングスタイルで好感持てるのですが、このやりかただと純粋に音楽的なこと以外について語り得ないので、そのグループ以外のアイドルオタクのあいだでは話題になりづらいのです。またアイドルの楽曲に物語性を持たせる場合、メジャーデビューやメンバーの増減などのグループ自体に関するトピックを重ね合わせるのがいちばん手っ取り早く効果の大きい手段ですが、反面それはライトなファンにとっては重すぎると感じてしまうことにもなりかねません。しかし今回は『キスマイBUSAIKU!?』というテレビ番組を主題とすることで、気軽に言及できるちょうどいい距離感の物語性を獲得しています。わたしはこの曲のストーリー的主人公にあたるのは振り付けにも示唆されているようにいままでキスブサで7位の常連だった二階堂くんだと考えていますが、そうするとこのストーリーは先日二階堂くんがキスブサのランキングで初の1位をとったことによって完全に補強されたわけです。タイミング的にこれがどこまで意図的なものなのかわかりませんが、なかなか持ってる男だなあと思いました笑
とはいえあくまでこれはお茶の間向けのキスマイなのであって、かれらの本領はもっとべつのところ、はっきり言ってしまえばスキルブス的過剰なかっこつけ感にあると思っています。でもたまにはこんな、素直にかわいくて、でも実はストレートと見せかけて変化球、なんて曲があっても楽しいなあと思いました。なにより理屈抜きにしていい曲です。発売前にここまで語りたくなってしまうくらい、そして音源でちゃんと聴いたらまた考えが変わるやもしれず、それも楽しみです。