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百万円と苦虫女

多少ネタバレかもしれないです。


一言でまとめてしまえば、後味の悪い映画です。現実なんてそんなに綺麗に決着がつくわけないのだし、単館系の宿命、とも言えるけど。
ひょんなことから前科持ちになってしまった主人公の鈴子(蒼井優)が、百万円貯めては違う土地に移っていく、というのが基本的な筋ですが、展開がわりと速いので、そんなに重くならずに観られるけど逆に言えばひとつひとつのエピソードの描き込みが浅いとも言えるかも。
鈴子には拓也という弟がいて、彼はクラスメイトに虐められているのですが、話が進んでいくごとにその虐めがだんだん酷くなっていく。教師も恐ろしいほどそれに気付かなくて、拓也はだんだん孤立していきます。姉の鈴子には、自分をからかう同級生に言い返したり自分でお金を稼いで放浪したりする、衝動的ともいえる力強さがあるのだけど、弟の拓也はまだ幼すぎてなにも行動を起こすことができない。逃亡を繰り返す鈴子と、逃げることすら選択肢にない拓也。その対比がこの映画全体を貫いている気がします。
海へ行き、山へ行った次に、鈴子は関東のとある地方都市(というか、上尾市)を拠点に選びます。そこで出会うのが、森山未來演じる大学生の中島。ふたりはすぐに恋に落ちます。ていうか告白したその日にセックスって速すぎじゃね? そんなもんですか?
最初のうちふたりはうまくいっていたのだけれど、彼の大学の後輩が現れてから様子がおかしくなって、中島は鈴子にお金を借りるようになります。それも理由あってのことなんですが、ふたりとも不器用なので自分の思ってることをちゃんと伝えられない。結局不信感にかられた鈴子は百万円貯まる前に上尾市を出てしまいます。中島は後輩に言われてそれを追いかけるのだけど、ふたりはすれ違い続けて結局もう出会えない。そこで話が終わっちゃうんです。
ふつうの娯楽映画なら、ふたりが再会して誤解が解けてハッピーエンドですよね。でもそうならない。鈴子と拓也は手紙を交換し合っているのですが、中島と付き合っている間鈴子は手紙を書かなくなっていて、というか拓也からの手紙も見ていなくて、その間に拓也は大きなアクションを起こしていた。でもそれは状況をよくするどころか、むしろ悪化させていくばかりだった。というのを鈴子は少し時間が経ってから知るわけです。そこで鈴子は町を出ることを決意する。
上尾市に初めに来た時に、鈴子は保証人の欄に拓也の名前を書いているんですね。結局、鈴子にとって一番大事というか、わかりあえてるのは弟である拓也なのだろうなと。上尾市を出て、実家に戻るにせよまたほかの土地へ移るにせよ、鈴子の将来は不確定で明るくないし拓也だってつらい現実には変わりないわけです。でも彼らは逃げずに強く生きることを最後に誓い合う。それは決して最善の選択ではないし、ふたりは救われないままなんです。でも不器用なふたりは、そうやってまっすぐ生きていこうとする。その絆に比べたら、恋愛なんてとても無力だと思わされます。だからこそのあのラストなのかなと。
あんまり手放しで薦めるべき映画ではないと思うんですが、彩度を落とした映像は好きだし、原田郁子の主題歌はすごく切なくてよいです。あとやっぱり蒼井優はかわいい。後味は悪いけど言うほど暗い話ではないので、わかりやすいハッピーエンドじゃなくても大丈夫な人は見たらいいと思う。個人的には男の人が見たらどう思うのか気になります。